はんこ豆事典

日本における印鑑・はんこの歴史-はんこ豆事典

  1. 現存する最古の印
  2. 印鑑制度の始まり
  3. その他のいろいろな印
  4. 私印の始まり
  5. 官印制に代わる花押の始まり
  6. 僧侶の印
  7. 戦国武将の印
  8. キリシタン大名の印
  9. 徳川歴代将軍の印
  10. 現在の印鑑制度
  11. 書体の歴史

現存する最古の印

日本ではいつ頃からハンコが使われるようになったかということはそれを裏付ける確かな資料がないため定かではありませんが、日本に現存する最古の印は現在、国宝に指定されている『漢委奴国王』の金印で、天明4年(1784年)筑前国糟屋郡志賀島(現在の福岡県福岡市東区志賀島)で発見されたものです。

後漢の光武帝が中元2年(57年)に日本の『倭奴国』に金印を授けたという記録が『後漢書』にありますが、まさにその印であるといわれています。

しかし金印は中国・漢朝廷から贈られた印で、日本製の現存する最古の印は『大連之印』です。大連は第十一代垂仁天皇の頃に初まり、第三十五代皇極天皇の即位まで続いた役職で『大連之印』はその官印です。

漢委奴国王
漢委奴国王かんのわのなのこくおう
金印。金製の鋳造印で印面のサイズは約23.5ミリ角。
大連之印
大連之印おおむらじのいん
銅製の鋳造印で官印。

印章制度の始まり

中国の官印(役所で使用される印)の制度が日本で整備されたのは奈良時代で、大宝元年(701年)律令制が整ってからだといわれています。日本で初めて種々の公印(公務で使用する印章)が製作され、下記の4種類(内印・外印・諸司印・諸国印)に大別されます。

天皇御璽
天皇御璽てんのうぎょじ
天皇の御印章である内印。銅製の鋳造印で印面のサイズは方三寸(約90ミリ角)。
太政官印
太政官印だじょうかんいん
律令制の最高国家機関の官印である外印。銅製の鋳造印で印面のサイズは方二寸五分(約75ミリ角)。現在でいうと国家の印である「大日本国璽」にあたる。
内侍之印
内侍之印ないしのいん
役所や役人にあたる諸司印。印面のサイズは方二寸二分(約66ミリ角)。
大和国印
大和国印やまとこくいん
「筑前国印」などの諸国印。印面のサイズは方二寸(約60ミリ角)。

その他のいろいろな印

太宰府印
太宰府印だざいふいん
筑前国に設置された九州と壹岐・対馬を管轄した地方行政機関。天平7年(735年)の印。
鎮守府印
鎮守府印ちんじゅふいん
陸奥国に設置された東北日本を統轄した軍事機関。承和元年(834年)の印。
遣唐使印
遣唐使印けんとうしいん
日本が唐(現在の中国)に派遣した使節で天平5年の遣唐使一行の外交印。
遣新羅使之印
遣新羅使之印けんしらぎしのいん
日本が新羅(現在の朝鮮)に派遣した使節の外交印。

私印の始まり

私印(当時は家印をさし、個人の印章)は奈良時代後期に発生し、当時はまだ原則的に私印の製造、使用は禁止されていましたが、公印に準ずる印として『軍団印』『郡印』『寺社印』などがありました。

  • 軍団…各国に複数配置され国の守備のため駐屯した軍団。それぞれの地方の出身者で構成されている。
  • 郡…律令制での行政区画の一つ。国の下に位し、郡司が管轄した。この下に郷・里がある。現在でもその名が残る地方がある。
遠賀団印
遠賀団印おんがだんいん
遠賀団の軍団印
筑前国に配置された4つの軍団の一つ。
山田郡印
山田郡印やまだぐんいん
近江国山田郡の郡印
足羽郡印
足羽郡印あすわぐんいん
越前国足羽郡の郡印
阿拜之印
阿拜之印あはいのいん
伊賀国阿拜郡の郡印
十市郡印
十市郡印といちぐんいん
大和国十市郡の郡印
大神宮印
大神宮印だいじんぐういん
伊勢神宮の寺社印
厳島神社印
厳嶋御社印 いつくしまおんしゃいん
厳島神社の寺社印
法隆寺印
法隆寺印ほうりゅうじいん
法隆寺の寺社印
薬師寺印
薬師寺印やくしじいん
薬師寺の寺社印
東大寺印
東大寺印とうだいじいん
東大寺の寺社印
延暦寺印
延暦寺印えんりゃくじいん
延暦寺の寺社印

官印制に代わる花押の始まり

平安時代中期から末期のかけて、官印がほとんど使われない時代があり、代わって花押(かおう)が広く用いられるようになります。花押は公家、領主、武将などが用いたもので、一般庶民はなお拇印、爪印などを文書に押していました。

源頼朝の花押
源頼朝の花押
源義経の花押
源義経の花押
武田信玄の花押
武田信玄の花押
豊臣秀吉の花押
豊臣秀吉の花押
徳川家康の花押
徳川家康の花押
徳川吉宗の花押
徳川吉宗の花押
毛利輝元の花押
毛利輝元の花押
北条時政の花押
北条時政の花押
楠正成の花押
楠正成の花押
伊達正宗の花押
伊達正宗の花押

僧侶の印

鎌倉時代になると宋との貿易で種々の文化が導入され、僧侶などの私印が作られます。これらは室町・桃山時代にかけて盛んになりました。

一休和尚の印
一休いっきゅう
一休和尚の印
織田信長の印『天下布武』
(刻字不明)
日蓮上人の印
北条氏の虎の印『禄壽應穏』
(刻字不明)
弘法大師の印

戦国武将の印

時も戦国時代に移り、戦国武将は花押と併用して私印を盛んに用いるようになりました。印文にもそれぞれ趣向をこらし、権力と威厳を表現しようとしました。織田信長の『天下布武』の印、上杉謙信の『地帝妙』、豊臣秀吉の『豊臣』の印、徳川家康の『福徳』の印などは有名です。

木曽義仲の印
(刻字不明)
木曽義仲の印
武田氏の竜の印
竜の印
武田信玄の印
織田信長の印『天下布武』
天下布武てんかふぶ
織田信長の印
北条氏の虎の印『禄壽應穏』
禄壽應穏ろくじゅおういん
北条氏の虎の印
豊臣秀吉の印
右『寿比南山』
左『福如東海』
中央『関白』
豊臣秀吉の印
豊臣秀吉の印
(刻字不明)
豊臣秀吉の印
豊臣秀吉の外交印『豊臣』
豊臣とよとみ
豊臣秀吉の外交印
徳川家康の外交印『源家康弘忠恕』
源家康弘忠恕みなもとのいえやすこうちゅうじょ
徳川家康の外交印
石田三成の印
藤原三成ふじわらのみつなり
石田三成の印

キリシタン大名の印

戦国時代に現在の九州の大名が用いたローマ字印です。豊後国を本拠に治めた大友氏21代当主『大友宗麟』、正室が細川ガラシャで有名な豊前国小倉藩の初代藩主『細川忠興』、NHK大河ドラマ『軍師 官兵衛』で知られる筑前国福岡藩の藩祖『黒田如水』。キリシタン大名であった大友宗麟と黒田如水は印文に洗礼名である『フランシスコ』と『シメオン』を用いています。

大友宗麟の印『FRCO』
『FRCO』
大友宗麟の印
細川忠興の印『tadauoqui』
『tadauoqui』
細川忠興の印
黒田如水の印『tadauoqui』
『Simeon Josui』
黒田如水の印

徳川歴代将軍の印

慶長8年以降、260年あまりに渡って江戸幕府の執政を行った徳川歴代将軍の印です。二重の枠に篆書体が特徴です。

初代:家康の印
福徳ふくとく
初代:家康の印
2代:秀忠の印
(刻字不明)
2代:秀忠の印
3代:家康の印
家光いえみつ
3代:家光の印
4代:家綱の印
家綱いえつな
4代:家綱の印
5代:綱吉の印
綱吉つなよし
5代:綱吉の印
6代:家宣の印
家宣いえのぶ
6代:家宣の印
8代:吉宗の印
吉宗よしむね
8代:吉宗の印
9代:家重の印
家重いえしげ
9代:家重の印
10代:家治の印
家治いえはる
10代:家治の印
11代:家斉の印
家斉いえなり
11代:家斉の印
12代:家慶の印
家慶いえよし
12代:家慶の印
13代:家定の印
家定いえさだ
13代:家定の印
14代:家茂の印
家茂いえもち
14代:家茂の印

現在の印鑑制度

以来時代の変遷とともに、一般庶民の生活にも深く浸透していったハンコは、明治6年(1873年)10月1日、太政官布告で署名のほかに実印を捺印する制度が定められました。ハンコが正式に市民権を得た日を記念して、10月1日が『印章の日』となりました。

大日本國璽
大日本國璽だいにっぽんこくじ
明治の新政府によって製作された国家の印。金製の鋳造印で印面のサイズは方三寸(約90ミリ角)。

書体の歴史

篆書体てんしょたい

篆書は中国初の統一国家と言われる秦の時代(紀元前221~206年)、秦の始皇帝の命により、それまでにつくられた漢字をまとめて正式に統一書体として採用された文字です。正確には『小篆しょうてん 』と言い、まだ紙が発明される以前に、主に青銅や石鼓に刻まれていた書体です。日本の紙幣に捺されている印影がそれで、日本銀行の『 総裁之印そうさいのいん』と印されています。非常に歴史と由緒ある書体です。

隷書体れいしょたい

隷書は前漢の時代に篆書(小篆)の繁雑さを省き、一般人にも解しやすいように、より実用的にと簡略化され生まれた書体です。紙が発明される前に木簡や竹簡に書かれた実用的な書体で、石に刻していた篆書から、木簡・竹簡に適するように早書きできる隷書へ移り変わっていきます。 文字の横画は水平で、横画を右に”はらう”のが特徴です。

草書体そうしょたい

草書は隷書を簡略化した『章草しょうそう』をさらに略した書体で、隷書の早書きから生まれました。はじめは木簡や竹簡に書かれていましたが、紙の発明とともに草書体が発達しました。簡略化により横画は隷書の水平から右上がりになり、文字のよっては判別しにくい文字もあります。日本の平仮名は平安時代に草書体をベースに生まれました。

行書体ぎょうしょたい

行書は後漢に生まれ、楷書と草書の中間に位置する書体です。隷書や楷書よりも速記に優れ、草書よりも判別しやすいということから生まれた書体です。製紙の発達で急速に広まりました。

楷書体かいしょたい

隋・唐の時代になると楷書が広く使われるようになりました。隷書をさらに書写に合うように改変する中で草書が生まれ、その対置である正書として楷書が生まれた。

古印体こいんたい

古印体は大和古印やまとこいんの伝統を受けつぎながら、隷書を元に丸みを加えた書体です。大和古印は奈良・平安時代に日本で作られ使用された鋳銅製の印章で日本独自のものです。官印として公文書などに使用されました。鋳造によって生じた線の切れ目や墨溜まりが特徴です。

印相体いんそうたい

篆書を基礎にして意匠化したもの。印象が柔らかく、今最も多く使われている優れた書体です。篆書を印章の枠いっぱいに肉太く字入れした印章用の書体です。

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